東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1289号 判決 1955年1月21日
控訴人 吉川万蔵
被控訴人 足立秀雄
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人訴訟代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し別紙第二物件目録<省略>記載の建物中図面斜線の部分五坪七合五勺を収去して右建物を明渡すべし。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、控訴人訴訟代理人において、控訴人は被控訴人に対し、別紙第二物件目録記載の建物中図面斜線の部分五坪七合五勺を収去して右建物の明渡を求めるものである、と述べ、被控訴人訴訟代理人において、原判決三枚目(記録第一一六丁)裏十二行目及び同じく四枚目(記録第一一七丁)表一行目に各原告とあるは、いずれも被告の誤りにつき訂正する、と述べた外、いずれも原判決事実摘示の記載と同一であるから、ここにこれを引用する。
<立証省略>
理由
控訴人は乙建物(別紙第一物件目録<省略>記載の建物)の所有者であり、かつ被控訴人が現在居住する甲建物(別紙第二物件目録記載の建物)がこれと同一建物であることを前提とし、この甲建物の所有権にもとずいて被控訴人に対しこれが明渡(ただし同図面斜線部分については収去)を求める旨主張するのであるから、本件の主たる争点は、(一)控訴人が乙建物について所有権を取得したかどうか、(二)甲建物が乙建物と同一物であるかどうか、したがつて控訴人が甲建物の所有者であるかどうかの二点に帰著する。
そして(一)の争点についての当裁判所の事実の認定及び法律上の判断は、原判決の理由中に説示するところと同一であるから、この点に関する右判決の理由の記載をここに引用する。被控訴人が当審において新たに提出援用した各証拠によつても右認定を左右するに足りない。
次に(二)の争点について按ずるに、原審及び当審における控訴人吉川万蔵は控訴人が訴外小笠原健治から譲受けた乙建物は、当時建坪十五坪以上の建物を建てることが難かしかつたため建坪十四坪五合として保存登記をしたが、実際の建坪は二十坪であり、甲建物は右の乙建物をそのまま旧位置からやや南方に移動し、その南側に幅一間、長さ三間半の廊下と間口一間半奥行一間半の玄関とを建増し、その他多少模様替をしたに止まり、甲建物は乙建物と同一物である旨供述するけれども、右供述は後記各証拠に照してたやすく措信し難く、他に控訴人主張の事実を認めるに足りる証拠がない。反つて成立に争のない乙第一、第二号証、第五、第六号証の各一、二、前掲証人小笠原琴治(後記認定に牴触する部分は措信しない)、原審証人阿部徳七、原審及び当審証人阿部井修治、同窪川幸衛(当審は第一、二回)の各証言竝びに原審における検証の結果を総合すれば、訴外窪川幸衛は昭和二十三年四月二十二日訴外小笠原琴治から乙建物とその敷地三十余坪を譲受けたが、(訴外小笠原琴治が訴外小笠原健治の代理権があつたかどうかはしばらく措くも、右訴外健治が乙建物を訴外窪川に二重譲渡したことは控訴人の自ら主張するところである。)それはその半年位前に右土地の南側に接する宅地を買受け所有していたので、右乙建物を取毀してその敷地を使用しようとの考にもとずくものであつたこと、当時通常の建物は建坪十五坪に制限せられていて、それ以上の建物の建築は困難であつたので、訴外窪川は建築代願人にこれを相談したところ、乙建物を利用すれば建坪二十坪の建物の建築も許可になるだろうとのことであつたので、同代願人に建築許可申請の手続を頼み、その許可の下りる以前同年七月頃改築を装つて建築に着手したこと及び乙建物は屋根はとんとん葺で壁も荒壁のままのバラツク建築であり、荒廃甚だしく居住に耐えないようなものであつたので、その屋根を取払い、荒壁を落し、ほとんど柱と貫と土台位のむき出した棟上程度の家組のものとし、これを旧位置から南方に約一間、東方に約一尺五寸のところに引いて新たに造つたコンクリートの基礎の上に据え、間取を変更し、柱も相当数新材と取替え、床も一部を残して新材に替え、屋根は瓦葺に耐え得られるように棟木その他の木材を取替えた上、瓦葺とし、壁は小舞は全部新たにし、結局全体の一、二割程度の古材を使用して同年十月頃甲建物を建築完成した(ただし当時は建坪二十坪で、廊下及び玄関の増築部分はなかつた)ことが認められる。右認定に牴触する当審証人宮下清次郎の証言、前掲控訴人吉川万蔵本人の供述部分はこれを措信しない。そして右認定の事実によれば、乙建物と甲建物とは全く建物としての同一性を欠くものというべきであるから、乙建物は取毀されて滅失し、甲建物が乙建物と別個に新築されたものと断ずるのが相当である。
なお成立に争のない甲第八ないし第十号証に、当審証人窪川幸衛の証言(第二回)を参酌すれば、甲建物は建築許可なくして工事に着手したため、世田谷区役所をら違反建築として摘発されたことが窺われるけれども、かかる建築違反の事実があつたとしても、甲建物と乙建物との同一性の有無には何等関係がないから、前段の判断の妨げとなるものではない。したがつて控訴人は取毀によつて乙建物の所有権を失い、甲建物の所有権は控訴人には属しないものといわなければならない。
よつて控訴人が甲建物(ただし同図面斜線部分を除く)の所有権を有することを前提とする本訴請求は、爾余の点について判断をするまでもなく、すでにこの点において失当であるから、これを棄却すべきものとする。原判決は右と同趣旨に出で相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十四条第一項、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 菅野次郎 内海十楼 坂本謁夫)